新しい年が明けた1月5日。現在開催中のオンライン展覧会「紙すくひと」で取り上げている、日本画紙や奉書を製造している福井県越前市今立地区で、毎年年始に開催される「漉き初め式」が執り行われました。当日は会場となった「越前和紙の里 卯立の工芸館」に、「紙すくひと」が大集合!このブログではその様子を紹介いたします。
オンライン展「紙すくひと」はコチラから↓
https://www.kawasaki-museum.jp/thirdarea/washitop/
↑越前和紙の里 卯立の工芸館
江戸時代の紙漉き家屋を移築したもので、伝統工芸士による紙漉きを見ることができます。2階では越前和紙に関連する版画や写真、造形の展覧会が定期的に開かれていて、この日は版画作品が展示されていました。
式は午前9時半に始まりました。まずは、工芸館の神棚で紙漉きを見守っている紙の神様「川上御前」に祈りを捧げます。宮司による祝詞の後、越前市長をはじめ関係者らが次々と榊を供えていきました。さらに工芸館内の囲炉裏で護摩を焚き、沸いたお湯で湯立の神事。無病息災と紙産業の発展を祈って、参列者にお湯が振りかけられました。
↑神棚に鎮座する紙の女神「川上御前」
この女神は、工芸館近くにある岡太神社の祭神。昨年は新しいお札が発行されましたが、実は国立印刷局に「川上御前」は分祀されています。
厳かな神事の後は、いよいよ漉き初めです。選ばれた伝統工芸士が、塵より、叩解、紙出し(漉く前の原料をきれいに水で洗う作業)、そして紙漉きをおこない、「紙漉き唄」という仕事唄をBGM(生うた!)に新年最初の作業を披露します。作業の前には、「川上御前」を祀る岡太神社の奥の院から汲んできた水が、漉き舟(紙を漉くときに原料をここから汲み上げる)と、塵よりと紙出しをする水流のなかに流し入れられました。
↑塵より(手前2名)と紙出し
水がとても冷たそう…。地道で過酷な作業から良い紙が生まれます。
↑叩解
原料を叩いて繊維をほぐしていく。重たい棒を上下させるのは相当な力作業。
作業が始まると、紙漉き唄と、叩解のトントンという音、紙漉きのちゃぷちゃぷという音が、心地よく館内に響きます。塵よりの作業は2名の工芸士が担当。節が多い原料だったようで「節が多くて大変!」と言いながらも、手際よく塵を取り除いていきます。紙漉き担当は3名の工芸士たち。ひとりは三椏の紙を紗漉きで(紙を漉く簀という道具に薄絹を張り付けて漉く方法)、もうひとりは楮の紙を、さらにもうひとりは同じく楮の紙を座って漉く「座漉き」スタイルで漉き上げていきました。
↑紙漉き
画面奥から、紗漉き、楮の紙漉き、座漉き。報道関係者の他、若い世代や海外の方の来場者も目立ちました。
この叩解や紙漉きといった作業を、製紙に関係する方たちが見守ります。伝統工芸士の紙漉きの後には、新人さんも紙漉きを披露。緊張しながらも、伝統を守るべく日々精進している成果を発表していました。これらの方はいずれも紙を「漉くひと」。でも、集まったのは「漉くひと」だけではありません。紙を「好くひと」も多く集まっていました。日本の紙に魅了された海外の方も少なくなく、作業の様子を真剣にみつめる眼差しが印象に残っています。
↑鏡餅の下に敷かれているのは、もちろん工芸館で漉かれた紙
工芸館は正月の雰囲気が漂っていました。今年の漉き初めの日は雪はありませんでしたが、「初仕事が雪かき」の年もあるようです。
雪が降るような寒い時期に、冷たい水を使う作業は大変…。ですが、紙は寒い時期に造られたものが上質とされてきました。オンライン展「紙すくひと」を、冬にめがけて開催したのはそのためです。この冬も、良い紙が造られ、そしてオンライン展も多くの方に見てもらえますように。
教育普及担当:奈良本