2024年04月09日

シニア向け美術作品鑑賞会「Artrip」を開催しました

 2024年2月15日と3月5日の2日間、シニアの方を対象とした美術作品鑑賞プログラムを行いました。
 2019年に台風の被害を受けて旧施設が閉鎖となった今、展覧会や教育普及の事業は川崎市内の様々な場所を一時的に借りて実施しています。会場によっては最寄り駅から遠かったり階段の上り下りが必要だったりと、必ずしも足を運びやすい場所とは限りません。そのため、利用しにくいと感じるシニアの方もいらっしゃると考えられます。そこで地域の方が利用しやすい場所で実施し、当館の収蔵品に親しんでいただく事業を計画しました。また、美術作品を鑑賞して思ったことや感じたことを話すことは、健康を維持することにつながるという調査結果が出ています。超高齢社会となった現在、シニアの方々の健康に当館の所蔵品を通して役立つことができないか、といった考えもあり、実施するに至りました。
 今回は、主に川崎市の麻生区にお住まいの方を対象にしました。なぜかというと、昨年10月に川崎市市民ミュージアムが麻生区に引っ越したためです。2019年に被災した建物は今も中原区にありますが、使用することができません。そのため、職員が勤務する建物を、麻生区に新たに建築しました。そこで、近隣地域の皆さんにご参加いただき、市民ミュージアムのことを紹介したいとも考えたのです。
 なお、本事業の実施にあたり麻生区栗平にある「看護小規模多機能 支え合い」さんのご協力のもと、利用されている方を中心に参加者を募っていただきました。

 当日のファシリテーター(進行)をお願いしたのは、一般社団法人ArtsAliveの林容子さんです。ArtsAliveは全国の様々な美術館や介護福祉施設でシニアの方向けの美術鑑賞を実施しており、10年以上前にも、当館で鑑賞事業を実施していただいたことがあります。その際は館内に展示されている絵画作品などを取り上げて鑑賞しましたが、今回の会場は、小田急多摩線「栗平駅」の駅前にある、カフェとワークスペースが併設されたお店「Café&Space L.D.K」のレンタルスペースです。作品の実物を外部へ持ち出すことは難しいため、画像を大きなスクリーンに映し出して鑑賞する形式で行うことにしました。鑑賞した作品は各回3点、2日間で6点を取り上げましたが、そのうち2点をご紹介します。

 足を上げた女性が描かれている作品は、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックの≪ジャヌ・アブリル≫(1899年)。実在した踊り子、ジャヌ・アブリルをモデルにしたポスターです。ロートレックの代表作の一つなので、見たことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 そして少女と猫が描かれた作品は、テオフィル=アレクサンドル・スタンランの≪ヴァンジャンヌの殺菌牛乳≫(1894年)。当時、新商品として発売された“殺菌牛乳”のポスターです。猫に与える牛乳が熱くないか確かめるために飲んでいる女の子と待ち構える猫たちが描かれています。

▲鑑賞が始まる前、参加して下さった方とお話しする林さん

▲会場にスクリーンを設置し、作品の画像を投影して鑑賞中

 今回は、お互いの話をしっかり聞けるよう参加者数を各回10名に設定し、スクリーンを囲みながら鑑賞を行いました。ファシリテーターを務めてくださった林さんは、作品に関する知識を伝えるのではなく、参加者が作品を観て思ったこと、感じたことを自由に発言できるような質問をいくつか投げかけていきます。両日とも60代~80代の方が9名ずつご参加くださり、「踊り子がいるのは舞台の上で、踊りながら振り返った一瞬を描いたのではないか」といった意見や、「女の子が飲んでいるのは、何か貴重なもののように見える」といった感想が出て、約1時間の鑑賞は終了。作品から連想したご自身の思い出を話してくださる方もいて、様々な話題が出る時間となりました。終了後に書いていただいたアンケートには、「色々な見方ができて楽しかった」「1時間では時間が足りなかった」といった言葉があり、楽しい時間を過ごした方が多かったことがうかがえました。 
 被災以降、コロナ禍もありシニアの方向けの事業を実施できていませんでしたが、今回のように地域の方が利用しやすい場所、参加しやすい形式でどんな事業を実施したらよいか、検討を続けていきたいと思います。

教育普及担当 杉浦