紙は、日本工業規格(JIS)では、以下のように定義されています。
植物その他の繊維を膠着(こうちゃく)させて製造したもの。なお、広義には、素材として合成高分子を用いて製造した合成紙のほか、繊維状無機材料を配合した紙も含む。
つまり、植物などの繊維を水中で絡み合わせてシート状にし、それを乾燥させたものと言うことができます。意外に思うかもしれませんが、糊のような接着剤は必要としません。繊維と水があれば紙はできるのです。ただ、繊維が絡み合っていないと紙ではありません。「紙」は英語で「paper」ですが、その語源は古代エジプトの書写材の「papyrus」(パピルス)です。「papyrus」はカヤツリグサという植物の繊維から造られているものの、その繊維は折り重なっているだけで絡み合ってはいません。つまり上記の定義には当てはまらないのです。一方、日本の伝統的な製法で造られるものは、主に楮(コウゾ)、三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)の樹皮の繊維を、「漉き」という工程で絡ませており、その定義に沿うものです。
楮はクワ科の植物です。成長が早く毎年収穫することが可能で、樹皮の繊維は1~2センチ程度と長く、丈夫な紙に仕上がります。表面は比較的ざらざらとしていて、私たちが、例えば熨斗紙など伝統的な日本の紙と聞いて思い浮かべるものの多くは、おそらく楮を原料とした紙です。
一方、三椏は繊維が5ミリ程度と短く、半透明で光沢があり、つるつるとした紙になります。丈夫なうえに表面が滑らかなので印刷に向いており、紙幣用紙の原料のひとつにもなっています。三椏と同じジンチョウゲ科の雁皮は、三椏よりもさらに滑らかな紙を造ることができますが、栽培が難しい原料です。雁皮紙は、その強さと表面の滑らかさから、金箔をのばすときに用いる箔打ち紙にも使われます。私たちが身だしなみを整えるのに使うあぶらとり紙は、実は箔を打ち終わった後の雁皮紙です。私たちは、楮、三椏、雁皮のいずれの紙も、身近なものとしてそばに置いていると言えます。
伝統的な日本の紙づくりは、次のような工程で進んでいきます。
①原料を刈り取る→②蒸す→③樹皮を剥がす→④黒皮を剥がす→⑤冷水や日光などに晒す→⑥樹皮を煮る→⑦ゴミを取り除く(塵より)→⑧叩いて繊維をほぐす(叩(こう)解(かい))→⑨漉く→⑩圧搾して水分を抜く→⑪板に張る→⑫乾燥させる→完成
「越前紙漉図説」にあるように、これらの多くの工程を昔はすべて、ひとの手で行っていました。家族単位で行う場合が多く、原料の刈り入れや叩解、漉いた紙の板張りといった力が必要な作業は男性が、原料から塵を取り除いたり、紙を漉いたりする地道な作業は女性がその役割を担い、家族で協力して紙を造っていたのです。このような手作業での製紙を今も続けている職人たちもいますが、現在では機械化が進み、早く大量に生産することも可能になっています。