関係者コメントの記録『教育普及の「レスキュー」』
被災直後、私たち教育普及チームがまず行ったのは、実施予定だったワークショップの講師や参加者などへの事業中止の連絡でした。実施が目前に迫る事業があったにもかかわらず、すべての方に事情を理解いただき、逆に気遣いの言葉をいただくなど励まされる場面もありました。
収蔵品レスキュー活動が始まると、教育普及チームは美術館部門のレスキュー作業に従事し、それと同時に、館外での教育普及活動を検討し始めました。毎年開催している公募展「かわさき市美術展」は、すでに作品の募集が始まっていましたし、市内公立小学校を対象とした「社会科教育推進事業」は、来館予定校の7割以上に対して未実施の状態でした。いちどは中止を考えたものの、多くの市民が関わるこの2つの事業だけは何としても実施したい、その想いが私たちを動かしていったのです。そして、「かわさき市美術展」は会場を変更し日程を遅らせて開催。応募数は前年度を上回りました。さらに、「社会科教育推進事業」はプログラムを検討・調整し、希望校に出向く出張授業に転換。1~2月の2か月間に25校の児童たちに授業を行いました。これらの事業は、2020年度、2021年度も実施しています。
教育普及事業は、被災し中止しても目に見える被害はありませんでした。しかし、来館するはずだった市民、事業に参加するはずだった市民の方々へのケアを忘れてはなりません。あの時の活動継続は教育普及の「レスキュー」だったと、私は考えています。
(掲載写真:社会科教育推進事業の様子 撮影日:2020年1月14日)
川崎市市民ミュージアム 教育普及担当学芸員 奈良本真紀
- 連載シリーズ
- 関係者コメントの記録
- タグ
- 教育普及