関係者コメントの記録「奈良文化財研究所 受援の立場から主体的な取組へ」
川崎市市民ミュージアムの被災から、この原稿を執筆している2021年3月末までの1年半の間、救援に関わった外部の専門家は延べ2,210人1 。分野は、保存修復、保存科学、映画、写真、美術、歴史、民俗、考古、漫画、書籍と多岐にわたります。作品・資料の素材や構造、技法や応急処置に詳しい専門家の観察と判断、そして保存環境の専門家やレスキューのマネジメント経験者の助言は、レスキュー活動に方向性を与えてきました。各支援団体の幹事あるいは事務局の立場で日々連絡調整事務に従事したコアメンバーや資機材などの提供者もこのレスキュー活動にとって欠くことのできない存在でした。
他方、専門家たちが、作業参加者に対し日常的な指導、技術指導ワークショップの開催、そして応急処置マニュアルの提供などを行なったことで、市民ミュージアム職員、川崎市職員、同館の協力企業スタッフが、応急処置の内容や手順、知識や技術を身につけ、次第に主体的に取り組めるようになっていったことも事実です。レスキューのマネジメントについても同じことが言えます。
厳しい環境下での試行錯誤と創意工夫、粘り強い取組の日々を経て2020年6月19日、収蔵庫から23万点以上もの作品・資料を搬出する作業は完了しました。その後、燻蒸とカビ払いを終えた作品や資料は次々と外部倉庫や専門機関に移送されるとともに、残されている膨大な資料を長期的展望のもとで応急処置していくため、館内には様々な機械や設備が設置され、作業環境も整えられてきました。現場は1年半前とまるで異なる様相を呈しています。
「受援の立場から主体的な取組へ」、「水損した作品・資料が折り重なり散乱した被災現場から、知見を集め整序された応急処置の作業所へ」というこのような推移は、2020年12月末に公開された映像記録や『川崎市市民ミュージアム収蔵品レスキューの記録』をはじめとする一連のレスキュー発信プロジェクトも伝えています。
筆者は国立文化財機構から2019年11月8日に派遣されて以来、長期間この現場と関わっています。これからの長い道のりの先にある川崎の姿も思い描きながら、支援者の一人として関係者のみなさんとともに活動を続けていければと考えています。
1 指定管理者(川崎市市民ミュージアム職員等)は5,189人、川崎市職員は1,345人、登録ボランティア2名です。いずれも現場での作業に入った人数のみのカウントで、レスキュー関係の情報処理や事務処理を行った人数は含んでいません。
(掲載写真:消防訓練の様子)
奈良文化財研究所客員研究員 浜田拓志
https://www.nich.go.jp/
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