関係者コメントの記録「国立映画アーカイブ 川崎市市民ミュージアム被災収蔵品レスキューについて」

レスキュー内容

映画・映像部門のレスキューでは、映画フィルムとその関係資料が主な対象となりました。ノンフィルム資料は他の部門と同様の作業フローを適用し、水損したフィルムは現像所などで水洗作業を進めました。水洗を終えたフィルム、そして水損を免れたフィルムを国立映画アーカイブの収蔵庫内に搬入して現在に至ります。もっとも、ここまでは応急処置の段階で、今後も劣化したフィルムのデジタル化等の作業が控えています。

レスキューで感じたこと、困難だったこと

歴史資料から現代の複製芸術まで多様な分野を扱う複合施設として、先進的な文化事業に取り組まれてきた川崎市市民ミュージアムですが、そのような施設本来の強みが、レスキューの苦労にもつながったことと思います。30年をかけて集められた多種多様な収蔵品が、それぞれ異なる方法や技術を要求するからです。いくつもの分野の協力者、専門家との連携や、全体のオペレーションも複雑を極めたことと推察します。
映画フィルムのレスキューにおいても関係者の支援と連携が不可欠でしたが、そもそも水溶性の高い乳剤に映像情報を記録しているフィルムが今回のような水害に対して脆弱であることに加え、乳剤の腐敗やカビの発生等、従来の技術的な蓄積やノウハウには収まりきらない状況を前に、手探りの対応を重ねる結果となりました。

今後に望むこと

私たちの分野では、国立映画アーカイブも含め国内数か所に点在するわずかな公的機関が、散逸の危機にある映画を文化として守る業務に従事してきました。川崎市市民ミュージアムの映画・映像部門は、これらのネットワークの重要な一角を占める、かけがえのない仲間です。そのコレクションも、川崎市の歴史に関わる記録映像から映画史上の名作まで、ユニークで豊かな内容を誇るものであり、なかには同館だけにしか残されていないフィルムも含まれています。
これらの貴重な映画遺産が一つでも多く救われることを、そして川崎市市民ミュージアムが、大規模な災害とレスキューの困難を経験した文化施設として、今後は新たな知見を活かしリーダーシップを発揮されることを期待しています。

(掲載写真:フィルムの記録撮影の様子)

国立映画アーカイブ 館長 岡島尚志 
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